At the Intersection of Business and Technology
2021年5月よりNew York University Stern School of BusinessのTech MBAプログラムに在籍しているTHと申します。プログラム内で私が唯一の日本人留学生ということもあり、僭越ながら紹介記事を執筆させて頂きます。
Tech MBAプログラムとは?
次世代のテック業界でのビジネスリーダーの育成を目的に2018年にNYU Sternに新たに創設されたプログラムです。プログラムの概要をまとめると以下の通りです:
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5月~翌年5月の1年制プログラム。取得できる学位はMBA (STEM認定)
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授業は”Business Core” (会計・ファイナンス・リーダーシップ等のビジネス系科目), “Tech Core” (DevOps, Data Science, Foundations of Networks and Mobile Systems等のTech関連科目) の双方から構成
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企業とのコンサルティングプロジェクトや西海岸へのStudy Tripなど、教室外での実践的な学びの機会も豊富
クラスプロファイル
私のクラス(Class of 2022)は50名で、8割弱が米国人、2割強がInternational(留学生)という構成です。「留学生」と一口に言っても米国で大学を出てそのまま米国で勤務をした同級生が多く、米国外から米国就職を目指しNYに来た留学生は全体の1割といったところです。出身国は英国、イスラエル、コロンビア、ペルー、インド、インドネシア、シンガポール、中国、台湾、日本(私)等多岐にわたります。
クラスサイズが小さいこともあり、あまり出身国等でのグループに分かれず(人数が少なすぎてグループが作れません笑)、和気藹々と仲が良いのが利点です。特に最初の夏学期(5-8月)はBusiness Coreの科目を50名全員で受けるので、自然と仲が良くなります。
Tech MBAということもあり、バックグラウンドはGoogle, Facebook, Amazon, Microsoft等のテック企業やテックスタートアップの出身者が一定数いるものの、金融機関や会計士・税理士、起業家も数名ずついます。よくTech MBAにテックの知識がどれほど必要か、という質問を受けますが、Undergradの専攻がComputer Scienceであったり、ソフトウェアエンジニアとしての就業経験がある同級生は全体の2-3割ほどで、残りは文系・ビジネスバックグラウンドの学生です。テックとビジネスバックグラウンドの学生が混在しているので、それぞれの学生が得意とする科目を経験のない学生に教えあうということができます。(例えば私の場合は会計・ファイナンスを教える代わりにエンジニア出身の同級生にテック系科目の勉強を手伝ってもらっていました)
卒業後の進路としてはGAFA等テック企業でのProduct Manager (PM) 志望が一番人気です。PMは日本ではあまり聞かない職種かもしれませんが、米国では人気の花形職種になっているようです。次点でコンサル(デジタルコンサル含む)、スタートアップ就職、ごくわずかに起業している学生もいます。
カリキュラム・授業
カリキュラムの構成は以下の通りです。
(*詳細はhttps://www.stern.nyu.edu/programs-admissions/tech-mba/program/program-overviewをご覧ください)
夏学期(5-8月): Business Core
(Economics, Finance, Accounting, Marketing, Leadership, Communication, Founding a Startup, Dealing with Data)
秋学期(9-12月): Tech Core + Electives
(Data Science and Machine Learning for Business (Technical), Foundations of Networks and Mobile Systems, Tech Product Management)
冬学期(1月): West Coast Immersion
春学期(2-5月): Tech Core + Electives
(DevOps and Agile Methodologies)
*カッコ内は私が必修(コア)科目として受講した授業です
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夏学期は全授業必修科目としてTech MBAのクラス全員で受講します。いわゆるMBAと聞いて想像するビジネス系の科目を4か月間詰め込みで学習するのが特徴です。Business Coreとありますが、Dealing with DataというPython, SQLでのデータ分析を学ぶテック系科目も一つあります。
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秋学期は様相がうって代わり、テック系科目が中心となります。Data Scienceの授業では様々な機械学習のモデルについて学びつつ、グループでビジネス上の課題を特定àKaggle等で関連するデータを発掘 → 課題解決のための機械学習モデルを構築といった実践的なグループプロジェクトも行いました。また、Foundations of Networks and Mobile Systemsと呼ばれる授業はNYU CourantのMS-CEI (Computing, Entrepreneurship and Innovation) の学生と合同で、受講しました。私はMS-CEIの学生とグループプロジェクトを取り組み、NFTの取引プラットフォームのデモを発表しました。
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冬学期はWest Coast Immersionというスタディトリップがあり、西海岸の都市にある会社訪問等を実施します。私のクラスはロサンゼルス・サンフランシスコに2週間訪問する予定でしたが、オミクロンの影響ですべてオンラインになってしまいました・・・
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春学期はElective中心のカリキュラムとなり、各々の学生が自身の関心にあった科目を履修します。DevOpsというテック系の必修授業もあります。アジャイル開発に関するPrinciplesや使用されている技術・ツールについて学びつつ、1チーム5名で”Scrum Team”を組み、EコマースのMicroserviceをSprint開発(2週間x4)するという実践的なプロジェクトを行います。(元々はComputer Scienceの学生向けの授業でしたが、MBA生向けにデザインされており、コードはサンプルコードが与えられます)授業前はGitHub? Docker? Kubernetes? CI/CDパイプライン?と知識ゼロの状態でしたが、講義・グループプロジェクトを通じて一連の内容が分かり、また何よりもソフトウェアエンジニアの考え方・動き方がわかる非常に良い授業でした。
Experiential Learningの機会
いわゆる座学の授業のみならず、より実務的なビジネスの設定に近いExperiential Learningの機会もあります。
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春学期はNYC Immersionと呼ばれる授業があります。この授業ではクライアント企業(私のクラスは某大手製薬・金融)よりTech MBA生に解決してほしいお題が出され、Tech MBA生はグループ(4-5人/グループ)に分かれ、課題解決に取り組みます。それぞれの企業が与えられたお題に対して、仮説構築 → インタビュー等を通じた仮説検証 → 打ち手の検討といったプロセスを経て最終的に結果についてクラアントについてプレゼンを行います。
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秋学期にはStern Solutionsという別のExperiential Learningの機会があります。こちらもNYC Immersion同様、企業に対するコンサルティングプロジェクトなのですが、より少人数(1グループ多くて3人)かつクライアントも伝統的な大企業から上場間近のスタートアップまで全グループバラバラ、という、よりクライアントと密な連携が必要なプロジェクトになります。
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Stern Solutionsは必修科目ですが、Endless Frontier Labs (EFL) という別のExperiential Learningの授業に切り替えることが可能です。Endless Frontier Labsとはアーリーステージスタートアップを対象にしたNYU Sternのアクセラレータープログラムなのですが、6か月間(2学期分)の授業としてMBA生にも提供されています。同プログラムに選定されたスタートアップ各社がMBA生一人とマッチングされ、MBA生は市場調査・財務モデル作成・成長戦略の策定・資金調達のサポート等、ありとあらゆるスタートアップの実務を手伝います。私は大企業コンサルの経験がすでにあり、どちらかというとスタートアップ支援に関心があったため、Stern Solutionsは取らず、こちらの授業を選択し、Fin Techスタートアップの事業開発を手伝いました。尚、忙しくはなりますが、Stern SolutionsとEFLの双方を履修することも可能です。
Electivesの例
ご参考まで、私は以下の科目をElectivesとして履修予定です。私はテック系科目を中心に学びたかったため、かなり偏りのある選択をしていますが、クラスメートによってはCorporate FinanceやBusiness Law等、ビジネス科目を中心に履修する方もいます。尚、いずれもStern(ビジネススクール)で提供されている授業ですので、2年制のGeneral MBAやパートタイムMBAの学生と一緒に受講します。
秋学期: Introduction to AI
Strategic Management of AI
春学期: Digital Currency, Blockchains, and the Future of the Financial Service Industry
Decision Models and Analytics
Data Driven Decision-Making
秋~春学期: Endless Frontier Labs
Why Tech MBA? - 私のケース
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何故Tech MBAを選んだか?とよく質問を受けますが、一番大きな理由は従来のビジネス科目以外のことを学びたかったためです。コンサル・投資のバックグラウンドがある中でファイナンスや会計など従来のMBA科目の勉強は(少なくともハードスキル取得という意味では)あまり大きなプラスがないと思い、何か今まで全く学んでこなかったようなことを勉強したいな、という思いがあったからです。(ビジネス科目が完璧に分かっている、というわけではありませんので悪しからず・・・)
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留学前に技術系スタートアップの投資や支援に関わる機会があり、技術系バックグラウンドの起業家やソフトウェアエンジニアがどういうことを考えているか、ということを理解したかったというのも別の理由です。
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また30代という歳や金銭面の余裕を考えて1年制のプログラムという点も魅力でした。1年制というと欧州のビジネススクールも選択肢に入りますが、これまで欧州のスタートアップ投資検討等に関わる中で多くの起業家・投資家が米国プレイヤーの動向に注目しており、また米国進出を検討するスタートアップも多かったことから、米国に対する理解を深めることは今後も必須だろうと思い、米国、特にニューヨークにあるNYUを選択しました。
まとめ – Tech MBAはこんな人におススメ
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(特に米国の)Tech企業への就職に関心がある。中でもプロダクトマネジャーに関心がある
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ビジネスだけでなくTech分野の知識・知見を身に着けてみたい
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2年制は時間・費用的に少し厳しい
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小規模なコミュニティで和気藹々とした家族のような雰囲気が好き